極子日子

つぶやくように書いて書けるようにするための雑記

山崎豊子さん

クローズアップ現代」で山崎豊子さんの創作の軌跡を辿る特集を見ました。取材を重ねて物語の構想を練り、ビッチリと「箱書き」を書いてから文章にされていたようですね。結論を決めずに当てずっぽうに書いているこのブログとは対極の営みです。

山崎さんを現在の作家になぞらえると高村薫になりますね。高村さんはシニカルな部分がありますから、味わいは違いますが、資料の読み込み、その消化力は等しく感じられます。高村薫にもぜひとも戦争文学を書いてほしい。現在の原子力と政治を巡る戦争=政争は描いておられますが、政争はチンケですから日中戦争や太平洋戦争を描いてほしいです。「晴子情歌」で戦前の漁師町の生活を生き生きと描いておられたのには感動しました。

山崎さんの作品は「沈まぬ太陽」を読みました。日航の墜落事故の悲惨なありさま、特に遺族たちが遺体を探して、肉片までかき集める様子には絶句しました。そして事故を生み出した日航の体質、労組をつぶすために体制側が第2労組を作る党派争いのやり方、流通・販路の独占のため、幹部同士で贈答、贈賄を繰り返すのが日常という組織の腐敗の在り方、また、経営刷新のため清廉潔白な志士が守旧派や反道徳性に挑む戦いなど、企業の問題点や企業小説のエッセンスを初めて教えてくれました。それまでの読書ではそうした企業内の対立構造は部分的にのみ見知っていたが、「沈まぬ太陽」はあらゆる事柄が有機的につながり、組織がもたらす巨大なうねりとして示してくれました。結果として社会にあるあらゆる組織に通じる物の見方を教えてくれました。

番組では、山崎さんが一番心を尽くして書いたのは「大地の子」だと肉声で語っていました。その当時、ということにはなるでしょうが。中国人残留孤児が日本人の戦争責任を負って迫害されたことの上に日本の繁栄はあったのだと。

遺作は捕虜となる「辱め」を受けた海軍兵士の話だそうです。誰しもが光を充てようとしなかったところに独力で日を充てた偉大な作家でした。